大学卒業して、起業したばかりの頃。
恐らく私の伝え方や表現が悪かったのだと思うけれど、こんなことを言われたことがあった。
「慶應(大学)出て、すぐに起業でしょ?つまりあなたが裕福だからフェアトレードとかできるんでしょ。どうせ親から出資してもらって、会社やってるんだよね。」
あれは何かの講演後の、歓談の時間だったと思う。名刺交換をしながら、そう投げかけられた。
決して強い口調じゃなかったけれど、私は悔しくって、思い当たるすべての事実で、ディフェンスしたような気がする。
例えば、
・大学に入ったのは28歳で、それまでずっと「高卒」として生きてきたこと
・同じ仕事をしていても、大卒の人より給料が安いこともあったこと
・大学の話とか、ゼミとかサークルとか、そういう話は一切わからなくて、劣等感があったこと
・実家は決して裕福ではないこと
・両親ともに「学」はない(が「愛情」をかけて育ててもらったこと)
・奨学金を毎月12万円マックスで借り、働きながら、授業料に充てて、大学に通ったこと
・多分60過ぎても、奨学金の返済は続くこと・・・
起業資金は、創業補助金でなんとかした。
「国のお金をもらって事業するな」
と言う人もいるけれど、「借金」しかない自分が手にできる、唯一の起業資金だと思ってしがみついた。
豆乃木も10年目を迎えて、去年までは、足もとしか見えないくらいに暗中模索していたけれど、この一年で、ようやく、一歩先に目を向けられるようになった。きっかけは、新型コロナウイルスの影響で、移動が制限されたこと。事業の柱の一つであったコーヒーセミナーができなくなり、すっかり産地からも遠のいた。だけど、行く先を失って、腰を据えて「今あること」に向き合ったことで、風向きが変わった。
今ならわかる。
「つまりあなたが裕福だからフェアトレードとかできるんでしょ。」
って言う人は、人生ずっとご意見番してて、多分自分で何も行動を起こさない人。
(だから、私も、あんなに必死になって「高卒だとか、奨学金の借金だとか」を説明する必要もない。)
たとえ親から出資してもらって起業したっていいじゃない!
目的は「親から借金しないで成功する」ことではないからだ。
私にとってのフェアトレードは、自分自身に嘘をつかないことでもある。
むしろそれでしかない。
自分が裕福だとか、裕福じゃないとか、何かを持ってるとか、持っていないとかは関係ない。
生産者から買い叩いたコーヒーで、利益を生んだとしても、ちっとも嬉しくない。
かと言って慈善事業ではないから、フェアトレードと言う正義をかざすのではなく、創意工夫が必要だ。
新しく「フェアトレード」の領域を超え、「マイクロロットのダイレクトトレード」を始めたのは、自分自身も「コーヒーをもっと楽しもう」と思ったから。
【フェアトレード】では、双方ともに成長をめざし支えあい、長期的な視点に立ち、継続的な取引を前提とする。一定期間、一定の量(またはそれ以上)を輸入することを決め、生産者の生活の安定につながり、生産意欲が沸くような取り組みを意識している。
【マイクロロットのダイレクトトレード】では、<コーヒーを最大限に楽しむ>をテーマに、さまざまな産地とのつながりを意識している。フェアトレードで重要視している「輸入量」については、そこまで意識することなく、生産者や生産地、そして品質にフォーカスした取引を行うことで、顧客や豆乃木自身がコーヒーを最大限に楽しめる環境を作る。
次の10年に向けて、自分自身も、そして多くの人に、喜んでもらえる事業体をつくっていく。今ならそうはっきり言える。