メキシコに到着した。
と言っても、目的地であるサンクリストバルにはたどり着けず、空港のあるトゥクストラに投宿。メキシコシティからの乗り継ぎの飛行機が遅れ、あてにしていたサンクリ行きの最終バスに乗れなかったためだった。
当然、宿を予約しているわけでもない。
タクシーの運転手に
「ホテル」
「明日はサンクリに行く」
「バスで」
「バスターミナルの近く」
「予約はない」
と断片的な英語交じりのスペイン語で伝えたが、果たして理解してもらえたのだろうか。
今、タクシーに揺られ、遠いネオンのある場所に向かっている。
とっくに日は沈み、空は暗い。私の海外経験の中では、「夜間のひとり行動は厳に慎むべし」なのだが。チアパスの平和にかける思いだ。
それにしても出発前は慌ただしい日々だった。
前日に機材一式を山﨑店長に託し、受注だけでなく、発送手配までも、私の手から離れた。2011年8月にわけもわからずオンラインショップを立ち上げてからは、受注、梱包、発送に至るまで、すべて、自分の手を掛けていた。
さて、フライトに話を戻そう。
今回のメキシコ行きは、アエロメヒコを初めて利用し、約12時間の空の旅。これまでのアメリカ経由での入国を考えると、これほど「楽」なフライトはない。
搭乗後に提供されるミールをパスし、とにかく深く深く眠りにおちた。途中、2,3度目を覚ましたような気もするが、はっきりと覚醒したときには、到着前の朝ごはんが配られていた。
メキシコ行きの3日前まで、一週間、東急百貨店本店にて催事があり、その慌ただしかった日々をリセットする深い眠りではあったけれど、起きた途端に「風邪をひいた」という感覚があり、こうして冷房のききすぎるタクシーの中でも、鼻をすすってばかりいる。
疲れていたんだなぁ。
そうしているうちに、私の提示した条件(恐らく通じていないのだろう)よりも明らかに高そうな宿の前に到着。しかし、今の私には、他の宿を探して欲しい、という気力も残っていない。
私は呆気なく旅の予算を初日から無視し、そのホテルに駆け込んだのだ。
無事に一部屋を確保すると、私は、今度は入念に寝支度をはじめ、携行していた薬にさっそくお世話になると、薄い布団をかぶり、勢いよく目を瞑った。
さあ、これから未知なる2ヶ月が始まる。でも、決して私だけに与えられた未知なる時間というわけではなく、誰にとっても、平等に、今日からの2ヶ月は、間違いなく「未知」であることを、私たちはついつい忘れてしまうものだ。
そうやって、異国の地に居なくとも、毎日をわくわく過ごしてみたい、とすでに帰国後の決意にすり変わる。そう、着いた途端に帰国後に思いを馳せるのは、私の悪い癖だ。あれだけ散々、メキシコ行きを切望したくせに。
とにかく寝よう。明日から本格的に私の「未知」なる日々が始まるのだから。