メキシココーヒーを牽引するベラクルスへ
ハルテナンゴから帰ってくると、わたしにはこの地で果たすべき用事がなくなった。 日本出国時に抱いた、マンサニージョの港へ、コンテナ船の出港を見守れるのではないかという淡い期待は、メキシコ到着後間もなく、不可能であると理解していた。
さて、どうしよう。
一刻も早く日本へ帰って、通常どおりの生活を送りたいという気持ちも大きかったが、このゆとりある時間を、せっかくだから大いに活用しようと、私は再び、メキシコのコーヒー産地のひとつ、ベラクルス州コアテペックへ行くことにした。
メキシココーヒーの新常識
私は2014年に、2ヶ月間メキシコに滞在したことがあった。
当時は、コーヒーサビ病などの影響もあり、日本での業務も行き詰まっていた。今にして思うと、豆乃木は当時、廃業同然だった。そうでなければ、2ヶ月間という時間をメキシコで過ごすことはなかったであろう。
2ヶ月間の滞在でもっとも印象に残ったことのひとつが、メキシコのコーヒーを担う若い力の存在だった。彼らは従来の収穫量を重んじる栽培ではなく、量は少なくとも、多種多様なコーヒーを丁寧に育て、畑からカップまでを自らの手で完結させようという気概と知識を持っていた。
「僕らのコーヒーを輸出できるかって?輸出するほどの量はないから、僕らのまわりの人たち(つまり現地の人)が喜んでもらえるコーヒーを提供していくよ。」
ときっぱり言い切っていた。
今回、再び彼らの存在を思い出した。栽培から焙煎、販売までを手がけるとあるメキシコの青年のホームページを見ると、
〈2017年に収穫したコーヒー豆はすべて完売しました。2018年の豆が欲しい方は、下記メールフォームに記入してください。〉
と、我々がまさにこれから輸入しようとしている2017年収穫のコーヒー豆を、すべて手渡したことが書かれていた。さらに、2018年の収穫に向けて、日々、コーヒーへの探求を行い、手を掛けている様子がFacebookからも伝わってきた。
私が、2014年当時、廃業同然で、なんとかたどり着いたメキシコで感じた希望は、確実に育っていて、そこには、かつての生産地と消費地という構造はなく、言わば地産地消のコーヒーカルチャーが生まれ、育っていた。自分たちのコーヒーを自分たちで味わい尽くしている様子が羨ましくもあった。
ほとんどの場合、私たちは、コーヒーを買う喜びしか、受けとることができないからだ。 2017年6月、私はまたメキシコに来てしまった。パスポートはメキシコへの入国スタンプしかないほどに、メキシコ一辺倒で来てしまった。〈宇宙の不思議なからくり〉は、あと何回、私をメキシコへと導くであろうか。
ベラクルスのコーヒーをこれからもひとりのコーヒーファンとして見守っていきたい。