心強い船頭により、予約したホテルにチェックインしたのは深夜1:00。シャワーを浴びて、今すぐ寝たいところだけど、星野道夫の『旅をする木』の続きが気になり、ページをめくる。
若かりし時代から、生涯をとおして、アラスカに熱狂した著者の瑞々しい感性を、四十路の私がそっくりそのまま味わうことはできないけれど、暗闇のマニラ市街を眺めながら、まだ知らない世界がたくさんあり、多くを知らぬままにこの世を去るときがくることを、あっさりと受け入れなければならないと思った。
朝は7時30分にホテルを出て、旅の仲間と共にオーガニックマーケットを目指す。
そういえば、グループでこんな風に旅をするのは、協力隊のとき以来ではないだろうか。ジープニーと呼ばれるミニバスに駆け込んだときに感じた湿り気は、乾燥したジンバブエを1年ぶりに脱出し、たどり着いたダルエスサラームで感じた空気感と似ていた。あれは2001年のこと。
あの頃には戻れないけれど、湿った風に触れた肌の記憶だけが、星野道夫の感性に、寄り添うことができるのではないだろうかとふと思う。
いや、この糖質天国で、糖質制限を試みようとする即物的な生き方をするわたしは、どこまでいっても、わたしでしかないのだろう。