今日はこの旅の目的地、カカオ農園があるギンゴオゴを目指す。車中、田園に広がる椰子並木に目を奪われる。これまでに見たことのない景色だった。
唐突だが、高校や中学校でお話をさせていただく機会で、過去に2~3度、こんな質問が寄せられた。
「(私が青年海外協力隊として派遣されていた)ジンバブエに住む前と、住んだ後で、何か変わったことがありますか?」
と。
21歳で、初めて暮らした海外生活が、アフリカだった。変わったに決まってるさ。わたしはすかさずこう答える。
「生魚が食べられるようになりました。」
しかし、会場は微動だにしないので、慌てて取り繕う。
「えっと、それ以外には、日本が世界の中心ではないのだと知りました。」
会場は依然、静まったままだ。わたしは説明をする必要があった。
小さい頃から世界地図が好きだった。
真ん中に日本列島があって、ヨーロッパとアメリカ大陸に囲まれている。
太平洋に浮かぶ小さな島国では、
「日本の首相が変わったことに対する海外の反応」
「外国人から見た日本の印象」
「あなたは日本のどこが好きですか」
という類のニュースやテレビ番組が流れる。
高校生のわたしは、世界中がわたしたちの動向に関心を持ち、わたしたちの暮らしぶりに視線を投げかけられているものだと思っていた。
しかしジンバブエでは、
「你好!(ニーハオ)」
と声を掛けられた。
「クンフー(カンフー)」
と言って空手の真似事を見せられた。
「あそこにお前の友だちがいるぞ。なぜ話しかけない?」
と言われて移した視線の先に、中国人らしき人が数人いて、
「彼らは中国人だと思うよ。」
と言うと、
「なぜ話しかけないの?」
と。
「中国語はわからないから。」
と言うと、
「Why? そもそも日本は中国のどの辺りにあるの?」
と続く。ここまでくると、もはやお手上げ。彼らの無知を責めるわけにはいかない。極東にある島国のことを、多くの人が、ほとんど知らないのだ。
本当は、世界の中心なんてどこにもない。
でも、9.11が起きたときに、わたしたちはガクガク震えていたし、3.11では、多くの人が日本のために、東日本の皆さんのために祈りを捧げた。少なくとも、わたしが知る限りの世界では。
同行する大学生の中には、この滞在がはじめての海外だという子もいる。彼らは何を見て、何を思うのだろうか。きっと多くの人にとって、はじめての海外渡航先は特別なものになる。わたしにとってのジンバブエのように。それがフィリピンだという学生は、本当にラッキーだ。彼らの温かさに触れてしまったら、ここを第二の故郷だと思ってしまうのではないか。
目的地に到着。フィリピンでは、2年ほど前から、国の政策でカカオ栽培が推奨されていると知ったのは現地でのこと。学生さんたちは、フィリピン産のカカオを使った何か、を企んでいる様子。
カカオの木々は、椰子の木の足下に、おおよそ一定の距離を保ちながら植えられている。カカオの実には、ひとつひとつ丁寧にビニールが被せられている。こうすることで、害虫から実を守ることができるのだと聞いた。
カカオ農家さんは、何もわからないわたしたちにひとつひとつを丁寧に説明してくれた。何度か同じ質問をしなければならぬほど、共通語である英語を理解することが難しい場面もあったが、辛抱強く答えてくれる。
コーヒーと同じように、カカオはわたしを虜にするだろうか。学生たちを夢中にするだろうか。
空を見上げると、椰子の実が風に揺れていた。
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