2日間のフィールドトリップ、前編では「サビ病被害の実態 チロン編」をお伝えした。チアパスの2015年の収穫に与えるサビ病の影響は昨年を上回る勢い。さあ、どうしたものか。
後編は、学生時代から関わったBats'il Maya(バチルマヤ)という団体の生まれ変わった新プラントを見学させてもらうことに。2012年2月に訪ねたときは、まだ建設中で、まさかこんなにも素晴らしい施設になるとは夢にも思わなかった。
バチルマヤはイエズス会系の生産者共同体。建設費2億円とも言われるこの施設も、イエズス会からの寄付によるとか。
司祭でありバチルマヤの代表となるオスカル神父には今回はお会いできなかったが、焙煎士としても定評があり、現在はプラントの責任者になったホセ・アキノ氏との再会が叶った。
新しいプラントは、生豆の保管から脱穀、選別、焙煎、カッピングルームを併設。そして近い将来開店予定のカフェも出来上がっている。ベルギーからのインターン生や同じイエズス会系の有名私立イベロアメリカ大学の学生たちが関わっているせいか、このプラントにいると、このチロン区がメキシコでも最大規模の貧困地区のひとつだということを一瞬忘れさせる。
もともとメキシコとの接点のきっかけとなった慶應大学FTP(フェアトレードプロジェクト)―JICAプロジェクト時代の報告書をたどると、
チロン区はチアパス州北部に位置し、メキシコでも最大規模の貧困地区のひとつとのこと。2010 年現在、人口 111,544人のうち 52,483 人(47.1%)が非常に貧困度の高い集落に住み、国家人口審議会(CONAPO)が算定した疎外指数――所得、電気・水道の有無、住宅の質、識字率・教育程度等をもとに指数化――によると、同州 119 区中 2 番目に高い値を示している。
このような情報を目にしない限り、その困窮ぶりは感じにくい。付け加えると、そのような地域で暮らす多くの人たちにとってコーヒーとは一体何かと言えば、
18 万人といわれる生産者――チアパス州のコーヒー産業全体では州人口の1/4ほどの100万人が同産業に何らかの形で関わっている――の多くは、2ha 以下のコーヒー畑しかもたない先住民農家である。そして、その現金収入のほとんどはこのコーヒー畑から生まれるのである。
とのこと。
どちらかというと、私が今回の滞在で巡った地(ハラパ、コアペテック含むベラクルス、プエブラ等)は、メキシココーヒーのニューウェーブをたどるものであり、新しいコーヒーカルチャーの拡がりを実感するものだった。しかし、チアパスの産地(公共交通機関では安易に辿りつけないような場所)に目を向けると、そこにはコーヒーを通した「生々しい生活」がある。コーヒーの栽培で得た金で、子どもを学校へ送り、薬などの医療費をまかなう。
ただ付け加えると、彼ら、「2ha 以下のコーヒー畑しかもたない先住民農家」が作るバチルマヤのコーヒー豆の中には、前回は感じることができなかった、上質な酸とカラメルのような甘みが感じられた。
焙煎豆を北米へ販売している「焙煎豆売り」が基本となるバチルマヤは、「2ha 以下のコーヒー畑しかもたない先住民農家」が組織する共同体が、メキシコという地のりを活かし、生き残る道を示してくれるかもしれない。
旧プラント
新プラント