大した時差ボケもなく2回目の朝を迎えた。時計は朝の7時半。
明け方に目を覚ましてしまって、中途半端にパソコンを開いてしまったせいか、まだ眠い。もう一眠りしてしまおうかという誘惑に駆られるも、今日はこの宿を出て、語学学校併設の宿へ移ることになっている。
うだうだと時間を過ごしていると、いよいよチェックアウトの時間が近づいてきた。
ようやく重い腰と荷物をあげるが、気持ちは一緒に上がってこない。
それでも一歩外に出れば、空は快晴。そういえば雨期だったはずだけれど、まだ雨に降られていない。
タクシーを捕まえてみたものの、住所で学校の場所がわかるのだろうか。
そして学校の場所がセントロ(中心街)より恐ろしく遠かったら、明日からどうするつもりなのか。
とりあえず、運転手に走り書きした住所を渡す。
「わかった」
そういって、わかってなさそうに走り出した車は、2,3度停車し、通りの名前を確認する。さらに、ああだこうだ言いつつも、10分も経たないうちに、呆気なく宿に到着。
なんとかなるものだなと感心(というか確信)しつつ、扉を開ける。
「オラ!メジャモ セイコ(こんにちは。私はせいこです。)」
教科書通りのあいさつをすると、女性が
「ビエンベニード、セイコ(ようこそ、せいこ)」
と満面の笑みをくれる。
こじんまりとしているが、清潔感のある事務所と、女性の笑顔は、私にこの上ない安心感を与えてくれた。
街を一望できる解放感のあるバルコニーに、燦々と降り注ぐ太陽の光。
案内してもらった個室も、大きなワンルームにトイレ・シャワー付き。さらに机と一人掛けのソファがあって、すべてを丸見せにしてしまうほどの大きな窓から入りこむ光は、眩しいほどだ。
「とっても気に入ったよ」
と言って、さっそく1週間分、部屋をおさえる。
(「1週間でたった120USDという点でも気に入ったよ」というのは独り言。)
さらに目的のスペイン語レッスンも、今日から受講可能とのこと。
物は試し、さっそく2時間受講することにした。
こちらもプライベートレッスンが2時間で22USDというから驚く。
授業では、生真面目そうなメキシコ人の先生が、しつこいくらい「棒読み系日本人」の私のスペイン語の発音を褒めてくれた。
「Lovely」
「Wonderful」
(―スペイン語初心者の私の授業は、大部分が英語で進行された。)
「巻き舌れろれろ系アメリカ人」には、この素直すぎるスペイン語の発音は難解なのだろうか。
気をよくした「棒読み系日本人」の私は、まるで舞台俳優の発生練習のように、大きく口を開き、1から30までを声高々に発音する。
バルコニーで駆け回っていた子どもたちも、やがていなくなっていた。
あっという間の2時間は、ほぼラジオスペイン語でカバーしている範囲の内容だったけれど、すべて初めてのような顔をして受講していたので、とっても優秀な生徒として扱われてしまった。
明日も早朝、2時間のレッスンをお願いしたが、さっそく化けの皮がはがれ、この生真面目な先生を失望させることになるだろう。一日でも長く、優等生でいられるように、学生時代も滅多にやったことがない予習復習をしようと、机に向かっているところだ。
新品の日西・西日辞典が、さらさらさらっと爽快に靡く。
ところで、そろそろ本題となるコーヒーの話をしようと思うが、今日はここまで。
宿の目印となるグアダルーペ寺院
かまって欲しさにカメラを向けるも、無視されたときの証拠写真